先日、インドネシア労働省の副大臣が日本を訪れました。
7月8日から12日にかけて、副大臣率いる視察団は東京の企業を訪問し、特定技能人材が実際に働く自動車整備工場などを見て回ったそうです。現場で働くインドネシア人の日本語力や技術力を目の当たりにした副大臣は、その質の高さを高く評価したと報じられています。
このニュースを聞いたとき、私は素直に嬉しく思いました。
なぜなら、インドネシア政府がわざわざ日本に来て「現場を見たい」と言ってくれたということは、日本で働くインドネシア人材のことを、政府としても本気で考えているという証だからです。
「送り出す側」の本気度が変わってきた
私たちが日々インドネシアで採用活動をしていて感じるのは、ここ1〜2年で「送り出す側」の姿勢が大きく変わってきたということです。
今回の副大臣の来日だけではありません。7月14日には、インドネシア労働省が「日本の産業ニーズの調査(マッピング)」を正式に開始したことが報じられました。自動車、運輸、建設、農業、介護といった分野ごとに、日本がどのようなスキルを求めているのかを把握し、インドネシア国内の職業訓練カリキュラムに反映させるという取り組みです。
つまり、「日本に人を送ればいい」という時代から、「日本が求める人材を育てて送る」という時代へ、インドネシア政府自身が舵を切り始めているのです。
これは、受け入れ企業にとって非常に大きな意味を持つ変化だと感じています。
「早期離職」問題に、送出し国側から切り込む動き
もう一つ、注目すべきニュースがありました。
7月3日、株式会社インドネシア総合研究所が、インドネシアの3つの地方自治体(西ヌサ・テンガラ州、南タンゲラン市、ブトン県)と、特定技能人材の早期離職を防止するための連携合意を締結したと発表しました。
この取り組みの特徴は、「地方政府の公権力」を活用する点にあります。悪質なブローカーを構造的に排除し、地方政府が募集段階から人材のスクリーニングを行い、来日後も就労状況を追跡するという仕組みです。
特定技能制度では、労働者の転職が認められています。これは制度として正しいことですが、一方で「条件の良い職場があればすぐに移る」という安易な転職が、受け入れ企業にとって大きな負担になっているのも事実です。
この問題に対して、送出し国側から制度的に取り組もうとする動きが出てきたことは、非常に画期的だと考えています。
インドネシア国内の雇用情勢も、変化の兆し
一方、インドネシア国内に目を向けると、少し気になるニュースもあります。
2026年上半期に、インドネシア全土で3万2,389人がレイオフ(解雇)されたと報じられました。特に製造業の減速が大きく、西ジャワ州が6,727人と最多です。繊維、電子機器、自動車部品といった労働集約型の産業で影響が広がっています。
インドネシアの失業率自体は4.68%と、1997年以来の低水準を記録しています。しかし、若年層(15〜24歳)の失業率は16.9%と依然として高く、「仕事はあるが、若者が望む仕事がない」という構造的な課題が浮き彫りになっています。
こうした状況が、「海外でスキルを身につけたい」「日本で成長したい」というインドネシアの若者の意欲を、さらに後押ししているように感じます。
「育成就労」への移行準備が本格化
日本国内でも、大きな制度変更が迫っています。
2027年4月に施行される「育成就労制度」に向けて、2026年9月1日から育成就労計画の認定申請の事前受付が始まります。この新制度では、入国時にJLPT N5レベル以上の日本語能力が求められるほか、特定技能1号への移行を前提とした3年間の在留資格として設計されています。
つまり、技能実習時代の「3〜5年で帰国」という前提から、「最大8年間の戦力化計画」を描ける制度に変わるのです。
企業にとっては、「人を受け入れる」だけでなく、「人を育てる」という視点がこれまで以上に求められることになります。9月の申請開始まであと2ヶ月を切りました。準備がまだの企業は、早めに動かれることをお勧めします。
米国との関税合意がもたらす影響
7月16日には、インドネシアと米国の間で関税合意が成立しました。米国がインドネシアに対する相互関税を32%から19%に引き下げる一方、インドネシアは米国の工業製品や農産物に対する関税障壁の約99%を撤廃するという内容です。
この合意がインドネシアの雇用市場にどのような影響を与えるかは、まだ見通しが立っていません。しかし、製造業の構造転換が加速する可能性があり、それに伴って海外就労への関心がさらに高まることも考えられます。
私たちのような人材紹介に携わる者としては、こうした経済動向にも目を配りながら、中長期的な視点で人材の確保・育成を考えていく必要があると感じています。
「選ばれる国」であるために
最後に、一つ気になるデータを共有させてください。
日本で働くインドネシア人労働者は約23万人に達し、前年比で約35%増加しています。特定技能の在留者数は半年間で約1万6,000人増えており、増加ペースは加速しています。介護分野では、インドネシア人が国籍別で最多となりました。
数字だけを見れば、日本はインドネシア人材にとって「選ばれる国」であり続けているように見えます。
しかし、ドイツ、オーストラリア、韓国なども積極的にインドネシア人材の獲得に動いており、国際的な人材獲得競争は激化しています。インドネシア政府が「50万人の海外労働者派遣」を掲げるなか、日本がその受け皿として選ばれ続けるためには、企業一社一社の受け入れ姿勢が問われてきます。
給与や待遇だけではなく、「この会社で何を学べるのか」「どのように成長できるのか」を明確に示すこと。そして、来日前の教育から就労後のフォローまで、一貫した支援体制を整えること。
それが、「選ばれる企業」になるための第一歩であり、私たちStarBoardが目指していることでもあります。
今月は、インドネシアと日本の距離がまた一歩縮まった月でした。この流れを活かして、両国の人材がともに成長できる環境づくりに、引き続き取り組んでいきたいと思います。
今月の主なニュースまとめ
- 7月8〜12日:インドネシア労働省副大臣が来日、特定技能人材の就労現場を視察・高評価(VOIX biz)
- 7月14日:インドネシア労働省、日本の産業ニーズ調査を正式開始(Sidak News)
- 7月16日:インドネシア・米国間で関税合意(19%)成立(日本経済新聞)
- 7月20日:2026年上半期のインドネシア国内レイオフが3万2,389人に(The Jakarta Post)
- 7月3日:インドネシア総合研究所、3自治体と早期離職防止の連携合意を締結(ライブドアニュース)
- 7月25日(予定):JP-MIRAIインドネシア―日本シンポジウム「安心・公正な人材送り出しに向けて」開催(JP-MIRAI)
- 6月26日:JP-MIRAI、インドネシア送出機関OHMに関する勉強会を開催(JP-MIRAI)
- 継続中:育成就労制度の準備本格化、2026年9月1日より認定申請の事前受付開始
- 継続中:特定技能1号全体の充足率が50.2%に到達(2026年3月末時点で約40万4,527人)
- 継続中:鉄道分野で113名が特定技能試験に挑戦、98名(87%)が合格し2026年夏から就労開始
- 7月6日:インドネシア移住労働者保護省、「SMK Go Global」プログラムで2026年に4万人の海外派遣目標を発表(ANTARA News)
- 7月施行:インドネシア政府、アウトソーシング労働者を4職種(ケータリング・警備・清掃・運転手)のみに限定する新規制を施行(Kontan)
- 7月15日:インドネシアZ世代のNEET率20.4%、職業高校卒の失業率8%が課題に(Timelines News)
- 7月20日:インドネシア雇用労働相、最低賃金制度の新方式について労使三者協議を開始と表明(Dael Pos)
- 6月22日:インドネシア雇用労働省「雇用アウトルック2026」発表、グリーンジョブ388万人創出を予測(Kemnaker)
- 7月1日施行:日本のビザ発給手数料が約50年ぶりに改定、一次入国ビザが3,000円→15,000円に(Kompas)
- 7月6日:中部ジャワ州で2026年度日本技能実習生選考実施、登録508名中401名が受験(中部ジャワ州広報)
- 6月24日:インドネシア・日本の労働協力が鉄道・バス・トラック・水産分野に拡大、バス運転手20名が既に就労中(Liputan6)