深く考える経営者と多様なスタッフ

受け入れは止めるのに、現場は倒産している

先日、政府が外食業における特定技能人材の新規受け入れを停止した、というニュースを目にしました。理由は「在留者数が受け入れ上限に迫った」というものです。ただ同じ週に、2025年の飲食業倒産が1,002件と過去30年で初めて1,000件を超えた、というニュースも流れていました。うち「人手不足」倒産は前年比161.9%増。現場は人が足りなくて潰れているのに、受け入れは止める。この矛盾に、経営者としてずっと引っかかっているものがあります。

誤解のないように先にお伝えしておきますが、私は「間違ったものは正す」という方向性そのものには賛成です。不法滞在や制度の悪用、治安に関わる問題については、毅然と対応すべきだと思っています。ルールを破る人を擁護するつもりなど、まったくありません。

ただ、ここ最近の日本社会の空気は、そういう丁寧な議論とは少し違う方向に流れている気がするんです。「外国人」という大きな括りで一緒くたにして、排外主義の名のもとに全てを否定する。そんな空気を感じることが、正直に言って増えてきました。特定技能人材はフルタイムで5年間働く中核人材で、パート・アルバイト比率78%の飲食業界にとっては現場を回す要の存在です。制度を悪用する一部の事例と、こうした真面目に働く人たちを同じ俎上で論じることには、やはり乱暴さを感じてしまいます。

5年後、10年後に「選ばれる国」でいられるか

先月、インドネシアで面接した候補者の一人、アリフくん(仮名・24歳)は、工業大学を卒業して日本での就労を希望していました。彼は言いました。「僕の先輩たちは日本で働いて、帰国後にインドネシアで大きな会社の幹部になっています。だから僕も日本に行きたいんです」。彼の目には、日本という国への憧れと信頼がありました。その信頼は、戦後日本が長年にわたってODAや技術者派遣を通じて築き上げてきたもので、インドネシアの親日感情の土台になっています。この信頼は、一朝一夕には築けません。でも、崩れるときは本当にあっという間です。

私がビジネス・ブレークスルー大学院時代に学ばせていただいた大前研一さんは、世界的な保守政党の躍進の背景に低所得層の不満があり、左派と右派は「同根」だと指摘しています。「自分たちが貧しいのは資本家のせいだ」と考えるか、「移民のせいだ」と考えるか。その分かれ目にすぎない、と。北欧では、かつて気候正義を掲げたZ世代が、今では「経済停滞」「治安悪化」「エネルギー価格高騰」を理由に右傾化しているといいます。この流れは、日本にも確実に波及してきています。だからこそ、私たちは一度立ち止まって問いたい。本当に今の政策で良いのか、と。

経営者として気になっているのは「5年後、10年後」の話です。今、日本が「外国人を歓迎しない国」だというメッセージを発し続けたら、インドネシアをはじめとするアジア諸国の若者はどう判断するでしょうか。彼らには選択肢があります。韓国も台湾もドイツも、深刻な人手不足を抱えて、優秀な人材を本気で奪い合っている。日本が振り向いたときには、もう来てくれないかもしれない。そういう揺り戻しを、私は真剣に心配しています。

対案のない「反対」は、思考停止と同じ

制度の問題は、制度で対応すればいい。不法滞在には厳格に対応する。悪質なブローカーは取り締まる。でも、適正に働く人材には門戸を開いて、受け入れ環境を整える。それが本来の「丁寧な精査」というものではないでしょうか。

対案のない「外国人反対」という流れは、言葉は強いですが、私には思考停止と同じに見えてしまいます。反対する前に、代わりにどうするのか。人口減少と労働力不足という構造問題から、日本だけが逃れる術はありません。

外国人人材を日々預かる経営者として、そして一人の日本人として、この国が長期的な視座を失わないでほしいと願っています。目の前の空気に流されるのではなく、一つ一つのケースを丁寧に見る。当たり前のことですが、この当たり前を守ることが、今ほど大事な時期はないのかもしれません。